私が監修を務めている,駿台スーパービジネス就職コースという大学1・2年生向けの講座がある.そのブログの次の記事が論議を呼んでいた.
駿台 スーパー ビジネス就職 コース のブログ
「就職先選びがブランド志向なのは当たり前」
あちこちから「無名企業を見下すな」「価値観が歪んでいる」「時代錯誤」等の反論を頂いていた(賛成意見も多かったのだが,人間,反対意見の方が印象に残りやすい).おそらく,最もまとまった反論は次のブログ記事である(他にも色々あるのかもしれないが).
スローガンを持って生きよう 伊藤豊(スローガン社長)ブログ
「ブランド企業に就職すると良いという誤解」
両者正しいと思う.
実は,個人的に共感するスタンスは,後者のスローガン社長伊藤豊さんの意見だ.独立してしまう人間ですから.
ただし,よく知らない他人や仕事経験のない学生にアドバイスをするとなったら,前者の駿台の意見だ.その場合,正しいか/正しくないか(好きか/嫌いか)という話ではなく,純粋に確率で判断するしかないからだ.
スローガン社長伊藤豊さんの記事は事例としてはその通りなのだが,確率の話となると様子は異なる.説明は省略するが,両者は比べているものがapple to appleではないので,比較して判断してはいけない.
ついでに,事例として出てくる「PayPalマフィア」,私も前々から「スゴイなー」と思っていたので少し詳しく調べてしまった.「PayPalマフィア」とは,オンライン決済のスタートアップ企業PayPal(eBayに買収)の出身者が,起業家やエンジェル投資家として活躍している現象だ.
ono-note: PayPalマフィア
スローガン社長伊藤豊さんの記事では,当時そこまで有名ではなかった企業の出身者が活躍している事例として扱われている.「確かに」と思ったが,「その人達の初職はPayPalだったの?」という疑問を持った.上記「ono-note: PayPalマフィア」に出ている名前をググってみると;
Reid Hoffman(Linkedin:ユーザー数2000万人を超えるアメリカ最大ビジネスSNS)
→初職:Apple Computer(現Apple),学歴:スタンフォード学士(symbolic systems)→オックスフォード修士(philosophy)哲学!
http://en.wikipedia.org/wiki/Reid_HoffmanElon Musk(Tesla Motors:いま超注目されている電気スポーツカー)
→初職:Zip2(兄弟で創業,Compaqが買収),学歴:スタンフォード修士過程2日間!(applied physics and materials science)
http://en.wikipedia.org/wiki/Elon_MuskRoelof Botha(Sequoia Capital:世界トップクラスのVC。この人はYouTubeなどに投資)
→初職:McKinsey,学歴:スタンフォード大MBA
http://en.wikipedia.org/wiki/Roelof_BothaDavid Sacks(Geni:家系図サービス。今年のTechcrunch50で企業向けtwitterのyammerを発表して優勝)
→初職:McKinsey,学歴:シカゴ大ロースクール
http://www.linkedin.com/in/davidoliversacksPremal Shah(Kiva:個人が発展途上国の起業家に貸付をするサービス。ソーシャルアントレプレナーとかいうキーワードで調べ物をしていると必ず出てくる。)
→初職:Mercer Management Consulting,学歴:スタンフォード大(microfinance)
http://www.kivapedia.org/index.php/Premal_ShahChad Hurley(YouTube:過去最大の成長スピードを見せた?みんな大好き動画共有サイト)
→初職:PayPal,学歴:Indiana University of Pennsylvania(Fine Arts)
http://en.wikipedia.org/wiki/Chad_HurleyJeremy Stoppelman(yelp:地域クチコミサービス)
→初職:Excite@Home,学歴:ハーバードMBA
http://www.linkedin.com/in/jeremystoppelman
うーむ.これをみて皆さんはどう感じるだろうか.
上記7名の初職をみてみると,コンサル出身3名,大企業出身2名,起業成功者1名,初職でPayPal1名である.私は調べながら,McKinseyが続いたときは,「PayPalマフィアというよりひょっとしてMcKinseyマフィア??」とも思ってしまった.
事例で全体を語るのはよくないが,人材輩出に世界で最も成功していると言われるベンチャー企業の人材であっても,実はその後成功している人のうち初職でPayPalというのは少ないのだ.
学生の初職としてベンチャー企業をススメるかというと,単純に確率としてやはりNoだ(ただし,学生時代の起業と特殊技能をもっている職人は除く).
私個人としてはベンチャー好きだし,応援もしている/されているが,これは価値観とは別の話だ.
2010/8/30 追記:
スローガンの伊藤豊さんがPayPalマフィアの経歴をさらに掘った記事を書かれた。
スローガンを持って生きよう 伊藤豊(スローガン社長)ブログ
「PayPalマフィアをさらにディープダイブしてみた」
言いたいこととそれを証明する証拠の提示としては正しい。ただ、全体観としてはどうなのか。起業家はざっくり以下3パターンぐらいに分かれるか。
1.生まれながらの起業家
2.ソフトウェアエンジニア等の分野での特殊能力保有者
3.優秀なビジネスパーソン
1や2にはベンチャー企業はオススメである、というか、放っておいても初職でベンチャー企業に進む人が多い。このゾーンの人たちには高等教育も基本必要としていないだろう。高卒の叩き上げで私より遥かに頭のよい創業経営者にお会いすることもある。しかし起業家の母数として多いのは3であり、3の場合は確率としてブランド企業出身者が多い。
あと言えるのは、大企業に行ったぐらいで腐るようであれば、起業は基本無理なので諦めておとなしくサラリーマンをしていた方がよい。そして、起業志向ではない学生には当然ブランド大企業がオススメである。
この話は高学歴やMBAは本当に必要なのか?という話に近いとも思える。本質的には必要ないのだが、分かりやすいシグナリング、優秀な人材ネットワーク、打ち込んだ学習プロセス等の周辺価値が大きいのだろう。
2011/3/22 追記:
↓も読んでおいた方がいいだろう。
若者に起業を勧める嘘つきな大人たち : ひろゆき@オープンSNS
http://hiro.asks.jp/67280.html
「不況で就職出来ないなら、起業すればいい。」みたいな文章を見かけることがありますが、こういうことを言う人は嘘つきか、バカか、無責任な人だと思うのですよ。
そもそも、社会人経験も資本金も無い人が、商品を作って、広報をして、売り上げをあげて、、、みたいなことをするのは、かなり難しいのですね。
10年前のIT業界みたいに、需要はあるけど、業者がそこまで多くないという時代であれば、ITの知識はあるけど、商売に関しては、よく知らないという若者でも、仕事が降ってきたので、なんとかなったと思います。
しかし、現在は、ITの知識もあって、商売の知識もあるという会社はごろごろしています。
しかも、知識も経験もある会社でも仕事が無くて困ってたりするので、素人がいきなり参入しても失敗する確率はかなり高いです。んで、楽に儲かりそうな分野は企業が手がけたりしてるので、素人の出番があるとすると、マルチ商法みたいなやつとか、会社だったらやろうとしないようなモノぐらいなんですよね。
という現状を踏まえて、若者に起業を勧める人を分類してみます。
・現状の社会を良く知らない、社会経験の足りない人
知りもしないのに、偉そうなことを大言壮語するタイプ。
学校の先生とか、ライターとか、その業界で働いたことが無いのに、根拠の無い思いつきを事実のように話す人。
自分で働いてるわけではないので、起業して成功した人の話を聞きかじって、起業の成功率が高いと思い込んでいる頭の悪い人。・会社員・公務員など、事業家ではない社会人
自分では信じていない事実を、面白おかしく言いたいだけなタイプ。
起業して、お金を稼ぐよりも、会社員のほうが安全というのをわかって会社員を選んでるにも関わらず、他人には起業を勧めるという無責任な人。
起業したほうが、上手くいくのが事実なら、既に起業してるはず。・起業を勧める事業家
モノを売るときに、長所だけ喧伝して、短所を隠す、信用できないタイプ。
コネも資本もない若者が出来て、利益が見込める事業なら、事業家は既にその仕事を手がけているはず。手がけないのは、それなりの理由があるからだけど、それを伝えない人。好景気に起業を若者に勧めるのは、アリだと思いますけど、不景気に勧めるのは、上記みたいな人が多いので、気をつけてくださいね。。。と。
one comment so far...
至極同感です。
起業やベンチャー就職を煽るのは無責任であり、暴力的であると思います。
人気の無いベンチャー企業の採用支援という意味でビジネスとしての意義はあるかと思いますが、それを「ベンチャーに行くのが正義」かのような大義名分を持ち出すのはいかがなものでしょうか。志ある正義感だとすれば、それは悪い意味でナイーブでしょう。エスタブリッシュメントに反発する傾向がある若い人へ合わせた確信犯的マーケティングの方であればまだよいかと思います。
ちなみにスローガンの伊藤豊さんは、ご自身は東大→IBM→起業というキャリアを歩んでらっしゃるようです。
コメント
You must be logged in to post a comment.