5月 1
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新卒採用に関わっている者として,雇用システムについて学んでおきたいと思い,この新書を読んだ.新書とは思えないほど骨太の論が展開されている.大学の法学部のテキストブックのような印象(法学部のテキストブックを読んだことがないが).新卒採用や非正規労働者など個々の現象について論じるのではなく,日本の雇用システムを国際比較と歴史的パースペクティブを使って大きな構図で捉えることができる.採用・育成に関わる方は必読.

不満は,各課題・政策提言についての定量的分析がないところ(これは新書に求めることではないか).あとは,「働くことが得になる社会へ」の節で,EUの「メイク・ワーク・ペイ」の政策が説明されていたが,その政策でどう働くことが得になるのかが見えなかった点.

しかし,このような不満は些末であり,採用・育成に関わる人々には必読の書だ.高度教育に携わる人々も読んだ方がよいかもしれない.とりあえず社内では必読・回読指定.テキストブック的に後からも参照することが時々ありそうだ.

角を折ったのが20箇所以上ある.その部分を自分なりに以下にメモ;

  • p2: 日本型雇用システムの本質
  • 日本型雇用システムの本質は、長期雇用や年功賃金よりも、その前提の雇用契約にある
  • 日本以外では雇用契約で職務が規定される
  • 日本の雇用契約は職務という概念が希薄。雇用契約それ自体の中には具体的な職務は定められておらず、いわばそのつど職務が書き込まれるべき空白の石版であるという点が、日本型雇用システムの最も重要な本質。日本型雇用システムにおける雇用とは、職務ではなくてメンバーシップ。
  • p12: 日本ではブルーカラー労働者もメンバーシップ型雇用
  • 日本以外の社会では,ホワイトカラー労働者には月給制や年俸制が適用されているが,ブルーカラー労働者の賃金は時給制が普通.また,ブルーカラー労働者は通常人事査定の対象ではない.まさに職務と技能水準のみによって賃金が決められる.
  • p22: 企業規模が大きいほどメンバーシップ型,小さいほどジョブ型
  • 企業規模が小さければ小さいほど,企業の中に用意される職務の数は少なくなり,職場も一カ所だけということが普通になる.企業規模によって職務や場所は限定されることになり,事実上,限定された雇用契約,ジョブ型に近づく.
  • p29-35: ホワイトカラーエグゼンプションは,非効率な残業(代)を減らすための制度のはずだが,議論がこじれて,長時間残業の割増率を5割に上げるという長時間残業をむしろ推奨するような改正案になってしまった
  • ホワイトカラーエグゼンプションは,労使が本音で非効率な残業を減らすための制度のはず
  • しかし,政府はそれを「仕事と育児の両立を可能にする多様な働き方」だと歪めて位置づけてしまった.
  • 労働時間規制とは「これ以上長く働かせてはいけない」という規制であって,育児との両立のために短く働くことを労働基準法はなんら規制していない.
  • 過労死遺族会「労働時間規制がなければ過労死・過労自殺に拍車がかかるのは明らか.犠牲をこれ以上出さないでほしい」と,規制の厳格化や企業への罰則強化を求めた.
  • 経営側にはこれに対する再反論の余地は十分にあった.
    「労働時間の概念を,賃金計算の基礎となる時間と健康確保のための在社時間や拘束時間とで分けて考えることが,ホワイトカラーに真に適した労働時間制度を構築するための第一歩」
    「在社時間や拘束時間の上限という形で労働時間を管理する.それなら時間が手当は適用除外でいいんだな」
  • 労働側も過労死遺族会も長時間労働や過労死の恐れゆえに批判していたこの制度を,ほとんどのマスコミは「残業代ゼロ法案」と呼び,どんなに残業しても残業代が支払われないがゆえにけしからん制度だと(のみ)批判を繰り広げた.
  • 「残業代ゼロ法案」批判の嵐の中,ホワイトカラーエグゼンプションは排除され,長時間残業の割増率を5割に上げるという長時間残業をむしろ推奨するような改正案になってしまった.
  • p35-37, p41: 労働時間・残業代規制についての歴史的パースペクティブと国際比較
  • 戦前の日本でホワイトカラー労働者に適用されていた月給制とは,純粋月給制で,残業手当という概念はなかった.これに対し,ブルーカラー層に適用されていた日給制とは,残業すれば割増がつく時給制であった.この両者が入り交じってきたのは,戦時下にブルーカラーの工員にも月給制が適用され,その際月給制であるにもかかわらず残業手当が支払われることとされたことが原因.
  • アメリカ: 残業代規制だけで労働時間規制が存在しない
  • EU: 物理的労働時間のみを規制して残業代は労使に委ねている
  • p51-: 恒常的時間外労働と整理解雇法理
  • 「時間外・休日労働の弾力的運用が我が国の労使慣行の下で雇用維持の機能を果たしている」(労働基準法研究会1985年報告):裏返して言えば,企業経営が傾いたときに労働者の雇用を維持するためには,通常の経営状態のときにかなりの時間外労働を行なうことを甘受する必要があるということだ.
  • 労働者側に恒常的時間外労働をすることへの抵抗感が少なく,解雇されることへの抵抗感が極めて強いとすれば,恒常的時間外労働はできるだけ分厚くしておくのが合理的.日本の労使はまさにその方向を選択してきた.
  • 整理解雇法理での4要件: 1.人員削減の必要性,2.解雇回避努力義務 3.被解雇者選定の相当性 4.労働組合や労働者との協議義務
  • p56-57: 日本の解雇規制の奇妙な点
  • 日本の解雇規制の奇妙な点は,企業が経営不振に陥ってやむを得ず行なう整理解雇については(正社員に限って)かなり厳格な要件を求めるわりに,特段経営上解雇の必要性があるとは思われないような労働者個人の行為言動に対する懲戒解雇やそれに準じる個別解雇については規制が緩やかな点.ヨーロッパ諸国にはいずれもなんらかの解雇規制があるが,その主眼は使用者による恣意的な解雇を制限するところにあり,経営上の理由に基づく解雇については労働者代表との協議手続きが中心.
  • 日本の解雇規制はある面では過度に厳しく,ある面では不当なまでに緩い.経済学者はとかく整理解雇のみを念頭に置いて解雇規制を論じがちだが,本当に必要なのは生活との両立を守るための解雇規制,企業から「退出(エグジット)」を迫られることなく「発言(ボイス)」することができる担保としての解雇規制ではないか.
  • p84: EUの派遣労働指令と日本の労働者派遣法の対象業務限定
  • EUの指令は性別,人種・民族,思想・信条,年齢,生涯,性的指向に基づく差別を禁止するだけでなく,すでにパート労働者とフルタイム労働者,有期労働者と無期労働者との均等待遇を定めている.今回,これに派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇が加わった.
  • 認められる制限・禁止は,派遣労働者の保護,安全衛生要件,労働市場の適切な機能,濫用の防止といった理由によるものだけ.
  • 日本の議論で当然と見なされている対象業務限定は,EUでは違法であり,国際的に見て極めて特異なやり方.この根底にあるのは,労働者派遣法を派遣労働者の保護を中心に考えるのではなく,派遣労働者によってクラウディングアウトされてしまうおそれのある常用労働者の保護を中心に考えようとする発想だ.
  • p94: EUの有期労働指令
  • EUの有期労働指令は,本来臨時短期的でない業務に有期契約を用いることで解雇規制を潜脱することを防止するため,有期契約の更新に正当な理由,一定期間の上限,一定回数の上限を定めることとしている.
  • EU諸国の半分くらいは,国内法で出口規制として,具体的な更新の上限を設定.また更新時に正当な理由がなければ有期契約から無期契約に移行.残りの半数近くの国では,有期雇用契約の締結自体に正当な理由を求めるという形で入口規制も行っている.
  • 重要なのは,いずれの国においても,これらの制限に違反すれば無期契約と見なされるということ.つまり,有期契約の期間満了だから雇用が自動的に終了するということにはならず,雇い止めは解雇と見なされる.
  • EUの多くの国では解雇紛争は最終的には金銭補償によって解決することが多いので,使用者にとってはコストの問題ということもできる.裁判上解雇の金銭解決を否定している日本の判例法理とずれのあるところ.
  • p106: 賃金制度改革の社会的条件
  • 賃金制度はその社会における働き方の基本構造を形作るものですから,そう簡単に変えることができるものではない.特に日本の年功賃金制度の場合,それが中高年期の家族の生計費も含めて保障する生活給であるという側面と,若年期にその働きに見合う分以下の賃金しか受け取らない代わりに中高年期にその働き以上の賃金を受け取ることで長期的な決済のバランスを取る一種の企業内再分配的な貯蓄という側面があるから,直ちに職務給に変えるなどということは少なくとも短期的には事実上不可能だ.
  • 中長期的に賃金制度を改革していくためには,中長期的に実現可能であるために整備すべき社会的条件は何であるのかを検討する必要がある.
  • 1.正社員,とりわけ男性正社員の過剰責任の緩和が必要だ.拘束性のより少ない今までの女性正社員の働き方を男女共通のデフォルトルールとし,本人が希望してそこから個別にオプトアウトするという仕組みに転換する.それによって,そのような新たな正社員と非正規労働者との間の格差を今までのように正当化することができなくなる.
  • 2.年功賃金制度の生活給としての側面に着目し,それが担ってきた生活保障機能を公的な仕組みで負担していかなければならない.とりわけ,教育費や住宅費を支える仕組みが確率しなければ,家族を抱える中高年の正社員たちは絶対に年功賃金を手放そうとしないだろう.これらは,まずは失業者や低賃金の非正規労働者に対する社会手当として創設し,時間をかけて正社員層にも広げていく中で,徐々に負担構造のシフトを進めていかなければなりません.まさに賃金制度と社会保障制度総体を基本構造から改革する長期的課題です.
  • 3.賃金制度を企業の中で具体的に改革しているための集団的な合意形成システムのあり方を考える必要がある.賃金制度改革とは中高年正社員の既得権を奪うことでもある.若者と中高年の間で,正社員と非正規労働者の間で賃金原資の再分配を実行していくためには,その両者をカバーする利益代表システムの確立が不可欠だ.今日,その基盤となり得る社会的存在は企業別組合をおいてほかにはない.
  • p120: 職能給と呼ばれるヒト基準の賃金制度
  • 欧州の均等待遇原則は同一労働同一賃金原則が基盤だが,日本のヒト基準の賃金制度では,同一労働でも(年齢や勤続期間が異なれば)賃金が異なり,異なる労働でも(年齢や勤続期間が同じであれば)同一賃金になるわけですから,それをそのまま持ち込むことは困難だ.
  • p121: 生活給制度のメリット
  • 生活給制度がさまざまな修正を受けながらも基本的に維持されてきたのは,それが関係者にとってそれぞれにメリットのあるものであったからだ.
  • 労働者にとって: 生活の必要性に応じた賃金が得られることは,長期的な職業生活の安心を与えるものだから,それ自体としてメリットである.新卒採用から定年退職までの長期雇用が保障されて初めて,労働者にとって生活給は確実なメリットとなる.
  • 使用者にとって: 日経連は高度成長期に至るまで年功賃金制度を否定し,職務給制度を唱道していたが,労務担当者たちが異議を唱え始めたために,職務給への試みは挫折してしまった.その最大の理由は,急激な技術革新に対応して大規模な配置転換を進めようとした各企業にとって,賃金を職務で決めることは配置先によって労働者間に不公平感を生じさせ,合理化自体を困難にするものであったからだ.年功賃金制度の延長線上に,(職務を問わず)労働者に仕事に全力投球してもらうためにあるのが「能力主義管理」.
  • 政府にとって: 年齢とともに上昇する必要な生活費,教育費,住宅費などが,戦後日本においては,企業が正社員に支払う生活給の形でまかなわれてきたために,その費用を政府が社会保障の対象として負担せずに済んできた.
  • p126: 日本的フレクシキュリティ
  • オランダやデンマークとのフレクシキュリティとは全く異なるが,いつでも解雇や雇い止めができる低賃金の主婦パートやアルバイト学生のフレクシビリティ(柔軟性)と,彼らをその夫や父親の高賃金と雇用の安定性によって保護するセキュリティ(安定性)を組み合わせたモデルという意味で,一種のフレクシキュリティを実現していたといえるのではないか.
  • 90年代以降の就職氷河期世代の出現により,社会の相当部分がセキュリティのないフレクシビリティという悲惨な状態に追いやられてしまった.日本的フレクシキュリティがゆらぎだし,雇用システムのあり方を真剣に考える時期が再び到来しつつある.
  • p135: 学卒一括採用システム
  • とりわけ高度成長期以後の日本社会においては,学校教育における評価基準が一般学術教育に偏し,職業という観点が軽視されてきた.教育社会学者の本田由紀氏はその著書『若者と仕事』の中で,日本の教育システムの最大の問題点をその「職業的レリバンス(意義)」の欠如に求めている.
  • 学校教育は職業キャリアに大きな影響を与えているが,影響を与えているのは,教育内容ではなく学校の偏差値だ.その学校で何をどれだけ学んだかではなく,その学校に入る段階の学業成績が重要.就職の際に企業が若者に求めるのは,その企業で使える技能を学校で身に付けてきたかどうかではなく,その企業で一から厳しく訓練するのに耐えられる素材かどうかだ.
  • p141: 企業内教育訓練体制の確立
  • それまで近代的な職種と職業能力に基づく外部労働市場の確立を目指していた労働政策も,1973年の石油ショックを契機に,企業内部での雇用維持を最優先させる方向に大転換する.それまでの社会的通用性ある技能に着目した公的人材養成中心の政策は,企業特殊的技能を身に付けるための企業内人材養成に財政的援助を行なう方向に大きく舵が切られた.
  • p147-149: 教育は消費か投資か
  • 生活給制度の下でこどもに大学教育まで受けさせられるような高賃金が保障されていたことが,その大学教育の内容を必ずしも元を取らなくてもよい消費財的性格の強いものにしてしまった面もある.そうすると,そんな私的な消費財に過ぎない大学教育の費用を公的に負担するいわれはないということになり,一種の悪循環に陥る.
  • 今後,教育を人的公共投資と見なしてその費用負担を社会的に支えていこうとするならば,とりわけ大学教育の内容については大きな転換が求められることになるだろう.すなわち,卒業生が大学で身に付けた職業能力によって評価されるような実学が中心にならざるを得ず,それは特に文科系学部において,大学教師の労働市場に大きな影響を与えることになる.
  • p151-152: 二つの正義
  • 「交換の正義」: 賃金は労働の対価だ.そこにおける正義とは交換の正義で,これは市場経済の根本にある正義の観念だ.
  • 「分配の正義」: 「乏しきに与えよ」という正義が,憲法第25条に立脚して「健康で文化的な最低限度の生活」を国民に保障している.
  • 市場の世界では交換の正義に基づいて,一生懸命働いていながら不健康で非文化的な最低限度以下の生活を余儀なくされている人が,一歩境をまたいで福祉の世界に逃げ込めば,働かなくても健康で文化的な最低限度の生活を保障される.ここに究極のモラルハザードが発生するが,これは我々の住む社会が二つの異なる正義の観念に立脚していることに由来する.
  • p169: 働くことが得になる社会へ
  • 「失業の罠」や「福祉の罠」といった言葉で語られるように,働けるのに働かない人々をどうやって労働市場に引き戻すかが1990年代以来の欧州の重要な政策課題となってきている.1990年代以来のEU社会政策を特徴づける大きな柱が浮かび上がってくる.それは「メイク・ワーク・ペイ」,働くことが得になるような社会を目指そうという政策だ.このため,失業者や福祉受給者の活性化(アクティベーション)が重視され,職業訓練などによって労働市場に復帰しやすくするとともに,彼らが就職する仕事の質を向上させ,離職を抑制するといった施策がとられている.→「働くことが得」になっているか疑問
  • p173-176: 誰が賃金制度を改革するのか
  • 職務給の導入を唱道する人々は,とかくあるべき賃金制度の姿を説くことに急で,それを具体的にどういう手続きで実現していくのかという観点が欠落している傾向が見られる.
  • 現在の日本の法制では,労働者の利害を代表するのは労働組合であるとされているが,その「労働者の意」が現実には「正社員の意」になってしまっている.産業民主主義の大きな欠落点である.改革はまずここから始められるべき.

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